財団、非血縁者間PBSCT実施へ
10月から限定的にコーディネート開始
白血病などの血液難病の治療法である造血幹細胞移植には、骨髄移植、末梢血幹細胞移植、さい帯血移植がありますが、このうち末梢血幹細胞移植については、これまで血縁者間のみで行われてきました。骨髄移植推進財団(以下財団)は、非血縁者間の末梢血幹細胞移植(以下PBSCT)を、平成22年度中に導入するとの方針のもと、昨年7月に医師や有識者で構成する「PBSCTに関する委員会」を設置し、8回にわたる会議で具体的な検討が行われてきました。なおこの委員会には私たち東京の会の代表代行でもある新田恭平氏が委員の一人に選任され、議論に加わってきました。そして、本年3月31日同委員会から財団理事会に対し「中間答申」が行われました。
また、平成22年度の国庫補助金では非血縁者間PBSCTのコーディネートシステムの構築費用は認められなかったものの、財団は平成22年度に最小限のシステム構築やマニュアル整備等を行い、今年10月から限定的に手作業による非血縁者間PBSCTのコーディネートを開始、さらに来年1月から最小限のシステムによるコーディネートを実施することを決定しました。
正式には国の審議会で非血縁者間PBSCTの導入が認められることが必要ですが、これまでの審議会でも導入に前向きな方向が打ち出されており、否認される可能性は低いものと思われます。財団は、導入当初は採取施設も23施設のみ、患者・ドナーの条件も限定して行うことにより、対象ドナーは年間約345人、PBSC採取件数は年間15.20件程度と見込んでいるようです。一方で財団は、平成23年度には国庫補助金を受けてシステムを改修し、本格的なPBSCTの実施に対応できるようにしたいとしています。
東京の会通信編集委員会では、中間答申の内容を紹介しながら、非血縁者間PBSCT導入の検証や課題提起を行いたいと考えています。内容的に1回では厳しいため、数回に分けて掲載していきます。今回はその第1回目として、そもそも非血縁者間PBSCTとはどういうもので、なぜこれまで血縁者間に限定されていたのか、非血縁者間で行うにあたってどんな課題があるのかなど、基本的な部分に触れてみたいと思います。
●末梢血幹細胞移植とは
造血幹細胞はその多くは骨髄の中に存在していますが、血管の中を流れている血液(末梢血)の中にも少し含まれています。末梢血幹細胞移植(PBSCT)とは、G-CSFと呼ばれる薬剤を数日間にわたって投与することにより骨髄を刺激し、末梢血中に大量の造血幹細胞を動員して、採取・移植する移植法です。骨髄移植と同様に、患者自身の細胞を移植する自家移植と他人から移植する同種移植があり、同種移植はさらに血縁者間と非血縁者間に分けることができます。
●骨髄移植との違い
骨髄移植とPBSCTのもっとも大きな違いはその採取方法にあります。骨髄移植の場合、全身麻酔をして腰の骨に注射針を刺して骨髄液を採取しますが、PBSCTでは、成分献血の際にも行われているアフェレーシスと呼ばれる方法で、血管(通常は腕の静脈)から血液を機械に通して末梢血幹細胞(PBSC)を採取し、採取後の血液はもう一方の腕の血管から戻します。骨髄移植における全身麻酔のリスク、骨に針を刺すことによる採取後の痛み、過誤によって血管を傷つけることによる大量出血などは、PBSCTでは発生しません。
また、骨髄移植の場合に通常必要な自己血の保存は不要であり、採取にあたって手術室や麻酔医の確保も必要ありません(アフェレーシスの設備は必要です)。さらに、G-CSFの投与を外来で行えば、入院日数も通常1泊2日で済み、ドナーの日程調整や病院のベッドの確保も骨髄移植に比べて容易になります。これらにより骨髄移植に比べて移植までの期間が短縮されることが期待できます。
●PBSC提供時の副作用
一方でPBSCの提供にも副作用やリスクがあります。G-CSFの投与により、骨筋肉痛、頭痛、疲労感、吐き気、嘔吐、睡眠困難などが起こる場合があります。また極めてまれですが、アレルギーショックや脳血管障害、脾臓破裂などの重篤な症状が起こることもあります。
もう一つの副作用はアフェレーシスに伴うもので、全身倦怠感、四肢のしびれ、血管迷走神経反射(めまい、吐き気、嘔吐等)などが起こり得ます。これらの副作用は成分献血でも起こりますが、PBSCTでは成分献血の数倍の血液量を体外循環させるため、副作用のリスクは高くなります。
日本造血細胞移植学会では、血縁PBSCドナーの全例登録と安全性モニタリングを短期と長期に分けて実施した結果、全身麻酔下における骨髄提供と比較してPBSC提供の有害事象頻度は同等との報告がされています。
●G-CSF投与の長期的影響
また、健康なドナーにG-CSFを投与することによる長期的なリスクがないのかどうかについては、データ不足でよくわからないとされてきました。特に平成15年、過去に血縁者間でPBSC提供をした方が白血病を発症した事例が報告され、G-CSF投与との関連性が疑われました。こうしたことが、これまで導入に向けた動きがありながら非血縁者間PBSCTが実施されてこなかった大きな原因の一つでした。
今回非血縁者間PBSCTの導入に向けて大きく動き出したのも、厚生労働省の研究班が、血縁者間PBSCTの全例登録や海外でのデータ等をもとに、PBSCTにおける有害事象を検証し、G-CSF投与による長期的影響、特に白血病発症との関連は認められないとする研究結果を発表したことがきっかけとなっています。
●患者側からの選択の傾向
中間答申によれば、PBSCTと骨髄移植を比較した移植成績に関するデータは日本にはありません。ただ、医療現場においては、非腫瘍性疾患(再生不良性貧血など)や小児患者においては骨髄移植が、ハイリスク患者やミニ移植を希望する高齢患者においては比較的造血回復が速やかなPBSCTが選択される傾向にあるとされています。また、PBSCTの方が骨髄移植よりも慢性GVHDが強く出る特徴があり、GVL効果(ドナー由来の細胞の免疫による腫瘍細胞の抑制)を目標としてPBSCTを選択する場合もあるようです。
●非血縁者間PBSCT導入の必要性
中間答申では、早期に非血縁者間PBSCTを導入する必要性として、非血縁者間PBSCTは世界的な標準治療となっており、我が国においても一日も早く導入してこれによる患者救命を可能にしていかなければならないとしています。また、患者サイドから見た必要性として、コーディネート期間の短縮や、骨髄採取施設の制約(手術室や麻酔医の確保など)の緩和が期待できること、現行の骨髄移植で不幸にして事故が発生したような場合(注:死亡事故等の重大事故を想定していると思われる)の有効な代替手段となりうること等を挙げています。
ドナーサイドからの必要性としては、麻酔アレルギー等の骨髄採取不適格ドナーや、全身麻酔下の骨髄採取に不安を感じるドナーの、他の有力な選択機会となるなど、ドナーの善意に応える環境が一層整うとしています。
●委員会における検討事項「PBSCTに関する委員会」でこれまでに議論された内容は以下の11項目であり、中間答申もそれに沿った構成となっています。①患者基準、②ドナー適格性、③G-CSFの投与、④PBSC採取、⑤凍結の可否、⑥非血縁者間末梢血幹細胞採取・移植病院の認定基準、⑦骨髄提供・PBSCT提供の選択決定方法(ドナーの意思決定)⑧家族同意の必要性、⑨PBSC採取後のドナーフォローアップ、⑩制度導入時の体制、⑪普及広報の進め方。どれも重要な課題であり、委員会においても様々な意見が出され、検討が重ねられてきました。その内容は次号以降に詳しく触れていきます。なお、今回の答申は中間答申であり、今後「PBSCTに関する委員会」では詳細な基準や運用案が検討される予定です。
●私たちの視点
私たち東京の会の基本理念は「患者救命とドナーの安全確保」です。今回の非血縁者間PBSCT導入について考えるにあたっては、この基本理念を常に念頭に置きたいと思います。私たちは医学的なことに関しては素人であり、的はずれな指摘もするかもしれませんが、患者・ドナー・ボランティアの立場から、問題提起をしていく予定です。なお、中間答申の内容は近いうちに財団のホームページに掲載されることになっています。これまでの委員会の議事録もあります。読者の皆さんも、是非ご覧になることをおすすめします。またこの件に関するご意見や素朴な疑問などありましたら、東京の会までお寄せください。よろしくお願いします。
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