先月号の東京の会通信で、骨髄移植推進財団が今年10月から限定的に非血縁者間末梢血幹細胞移植(PBSCT)のコーディネートを開始すること、また、財団が諮問した「PBSCTに関する委員会」が、非血縁者間PBSCT導入にあたっての基本方針について「中間答申書」にまとめたことを、お知らせしました。
そして、PBSCTの特徴や、非血縁者間で行うにあたっての課題、中間答申書の記載項目などについて概括的に紹介し、東京の会の基本理念である「患者救命とドナーの安全確保」という視点から、東京の会通信で非血縁者間PBSCT導入にあたって検証や課題提起を行うこととしました。今回はその続編として、非血縁者間PBSCT導入の必要性について、この間の経過や、患者・ドナーの観点から検証してみたいと思います。
●非血縁者間PBSCT導入の経過
PBSCTは2000年4月に医療保険が適用となり、血縁者間で盛んに行われるようになりました。骨髄と比較して、手術室や麻酔医の確保がいらないなど、医療側にとって都合がよいこともあり、一時は血縁者間移植では移植ソースとしてPBSCが骨髄を大きく上回るようになりました。
手術室や麻酔医の確保は、骨髄バンクを通じた非血縁者間骨髄移植でもコーディネート迅速化における大きなネックとなっており、医療関係者を中心に非血縁者間PBSCT導入を求める声が高まり、財団も委員会を設置してPBSCT導入の検討を開始しました。当時、ボランティア団体もこの問題について考えるため、血縁者間PBSCドナーの体験談を聞いたりしました。その内容は、たまたま副作用がひどい事例だったのかもしれませんが、PBSC採取の際非常につらい思いをしたというものだったため、ボランティア側には非血縁者間PBSCT導入に対する懸念が強かったのも事実です。
ただ、その後非血縁者間PBSCT導入は新たに設置された国の造血細胞移植委員会(審議会)での検討事項となり、実質的な議論が進まず結果として頓挫しました。さらに2003年に血縁PBSCドナーが白血病で死亡する事例が生じたことから、G.CSFとの因果関係が疑われ、非血縁者間PBSCT導入はさらに遠のくことになりました。その後日本造血細胞移植学会で血縁者間PBSCTの検証が続けられてきましたが、2008年3月の国の審議会において「G.CSFと白血病発症の因果関係はない」とする報告がされ、財団はPBSCT導入に向けて一気に走り始めました。
2009年7月に財団は「PBSCTに関する委員会」を設置し、毎月委員会を開催して、前述したように今年3月31日に基本方針をとりまとめた中間答申が出されました。また、財団は常任理事会で平成22年度(2010年度)中の導入を決定し、PBSCT導入のためのコンピューターシステム構築費用が国の予算で認められなかったにもかかわらず、今年10月に手作業によるコーディネート、来年1月から最低限のシステムによるコーディネートを、条件を限定して行うことにしています。
●もう一度立ち止まって考える
このように財団は今年度中の非血縁者間PBSCT導入にこだわり、相当前のめりになっている印象を受けます。委員会の中間答申も今年度中の導入を前提としてこの時期に間に合わせた形になっています。PBSCTは財団として長い間店晒しになっていた課題であり、一気に決着を付けたいということなのかもしれませんが、そこまで急ぐ理由がいまひとつ理解できません。財団が天下り問題や一時事業仕分けの候補に上がるなど話題となっている中、実績を示したいのではないか、と言ったらそれはあまりにもうがった見方でしょうか。
それはともかく、私たちボランティアとしては、本当にPBSCTの導入が必要なのか、そんなに急ぐ必要があるのか、もう一度よく考えてみたいのです。決してPBSCT導入に反対というわけではありません。ドナーにとっても安全性が確保されていれば選択肢が増えることは決して悪いことではないし、PBSCT導入によってコーディネート期間の短縮が実現すれば、それだけ患者救命の可能性が広がるからです。しかし、物事にはメリットもあればデメリットもあるのが普通で、デメリットはあるのか、それは克服可能なのかという観点からも考えてみる必要があると思うのです。
●患者から見た必要性
前述したとおり、手術室や麻酔医の確保が不要なことから、血縁者間移植では一時PBSCが骨髄を大きく上回っていましたが、最近は半々からむしろ骨髄が優先される傾向にあるようです。これは移植成績の面で、骨髄に比べてPBSCTがいいとは言えず、特にPBSCTでは慢性GVHDが強く出る傾向があることから、移植後のQOLの面からも骨髄が見直されているということのようです。
非血縁者間PBSCTが導入された場合、ハイリスク患者やミニ移植を希望する高齢患者は、造血機能回復が早いPBSCTを希望することが予想されます。その他の患者にとっては、コーディネート期間の短縮が期待されることがメリットとして考えられます。しかしそれを理由として積極的にPBSCTを患者側が希望するということはあまり考えられません。大多数の患者は、骨髄でもPBSCでも、ドナーが提供してくれるならどちらでもよいと考えるでしょう。また、最近の血縁者間移植の傾向を見れば、ドナーがどちらでもよいとした場合、提供可能時期にもよりますが、骨髄でお願いしますという患者(および主治医)が多いかもしれません。さらに再生不良性貧血などの非腫瘍性疾患の患者の場合は、骨髄を希望することになりそうです。
一方患者にとって非血縁者間PBSCT導入のデメリットとしては、PBSCTによって慢性GVHDが強く出た場合、また非腫瘍性疾患の患者でドナー希望によりPBSCTになってしまった場合などがあり得ますが、患者にとっては造血幹細胞を提供してもらえることが最優先ですから、そのことが大きな問題になることはないと思われます。
結論として、患者から見た場合、手術室や麻酔医の確保が不要なことなどからコーディネート期間が短縮されたり、選択肢が増えることによって実際に提供してくれるドナーが増えたりすれば、広い意味でメリットになると言えます。ただ、実際そうなるかどうかは未知数です。この点については後ほど考えます。
●ドナーから見た必要性
ドナーから見た場合、提供方法の選択肢が増えるということが挙げられます。ただ、それが本当にメリットかどうかは微妙な部分もあります。選択に悩むということも考えられるからです。中間報告書にあるように、悪性高熱症や腰痛があるなどこれまで骨髄ドナーとして不適格だった方でもPBSCドナーにはなれるというメリットはありますが、大多数のドナーには関係ありません。
一番大きいのは、G.CSFの投与を外来で行えば、提供に際しての入院が通常1泊2日ですむということです。骨髄の場合通常必要な事前の自己血採血も不要です。仕事や家庭の事情で骨髄提供が難しい方も、提供できる可能性が出てきます。我が国における血縁者間PBSCTでは、通常G.CSFの投与も入院で行われていますが、アメリカなど海外では外来投与が一般的です。中間答申でも当面は採取病院の判断としながら、将来的には外来でのG.CSF投与を原則とする方向で検討するとしています。ただ、実際にG.CSFの外来投与が定着するかどうか、やってみないとわかりません。ドナーの居住地と採取病院との距離や、重い副作用が出た場合の対応などの課題があり、当面は試行錯誤が続く可能性もあります。
ドナーの選択という面から考えると、究極的には、全身麻酔や採取後の痛みのリスクと、G.CSF投与やアフェレーシスの副作用のリスクのどちらを選ぶかということになります。これをメリットと言えるでしょうか。マスコミ報道などでは、ドナーの身体的負担はPBSCTの方が骨髄より軽いという印象を受けますが、日本造血細胞移植学会の報告でも、有害事象の頻度は同等とされており、この点についてはドナー候補者への十分な説明が必要です。
また、患者と同様に、ドナーの側も「どちらでもよい」「患者の希望に合わせる」という方が多いのではないかと予想されます。なお、中間答申では、ドナーは確認検査の際に両方の採取方法の説明を受け、「どちらでもよい」または「どちらかは不可」という意思表示をすることになっています。この際患者の希望は原則伝えず、ドナー側から要望があった場合のみ、患者の選択が変わりうることを前提に、患者の希望を伝えるとしています。
●日本乗り遅れ論は正しいか
中間答申の「むすび」において、海外においては非血縁者間PBSCTは標準医療となっており、導入していないのは日本だけで、一日も早く導入してこれによる患者救命の機会が確保されなければならない、としています。これが財団が導入を急ぐ最大の理由のようです。いわば「日本乗り遅れ論」で、財団の「あせり」のようなものを感じます。しかし、よく考えてみれば、日本の場合、骨髄移植と並んでさい帯血移植が非血縁者間造血幹細胞移植において大きな比重を占めており、相互補完的な関係になっています。この点は他の国々と大きく違う点であり、そのことが考慮に入っているのかどうか、疑問を感じます。また、PBSCT導入により、患者・ドナー双方に選択肢が増え、医療施設にとっても移植需要の増大に対応する有効な手段となるとしていますが、一方導入に伴うデメリットもしくはリスク、課題等については、「むすび」では一切触れられていません。
次号では、骨髄バンクにとってのPBSCT導入の必要性について、まず考えてみたいと思います。(二見茂男)